第8回「公務員の個人情報の保護について考える -自治体職員の個人情報はどこまで守られるか-」
はじめに
当然のことながら、公務員である自治体職員も一人の個人として、その個人情報は法令による保護の対象になります。他方で、自治体職員は公務を担当する立場にあり、その職務の内容によっては、行政の透明性や住民に対する説明責任という観点から、一般の私人とは異なる個人情報の保護範囲の制限等(以下「保護範囲の制限」といいます。)がされる場合があります。保護範囲の制限は、以下のとおり、個人情報保護制度や情報公開制度における(情報)開示請求において、典型的な形であらわれます。
まず、個人情報保護制度では、本人(注1)が自治体などに対してその保有にかかる「本人の情報」の開示を請求する場合で、開示対象となる文書などに開示請求者以外の自治体職員の情報が含まれている場合に、その職員の情報をどこまで開示するか、という場面で問題になります。この問題についてのルールを定めるのが個人情報保護法78条1項2号ハの規定(注2)です。
これに対して、情報公開制度では、その開示対象となる文書などに自治体職員の情報が含まれている場合に、その職員の情報をどこまで開示するか、という場面で問題になります。この問題に適用されるルールは、自治体の場合には、それぞれの自治体の情報公開条例によることになりますが、本稿では、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下「情報公開法」といいます。)5条1号ハの規定(注3)を、いわばモデルルールとして検討を進めることにします。
個人情報保護制度と情報公開制度は制度趣旨を異にする全く別の制度ですが、情報開示請求に対する公務員の個人情報の取扱いについて両者には共通する考え方があります。それは、公務員に関する情報も個人として保護されるべき情報ではあるけれども、そのうち「職務の遂行に係る情報」については、当該公務員等の職及び職務遂行の内容に係る部分を不(非)開示情報から除外する、という考え方です。今回は、この考え方を取り上げて、自治体職員の個人情報保護のあり方の問題を検討したいと思います。
(注1)「個人情報の保護に関する法律」(以下「個人情報保護法」といいます。)2条4項は「本人」を「個人情報によって識別される特定の個人」と定義しています。
(注2)法78条1項柱書は「・・・開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(・・・「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない」とし、同項2号ハは「当該個人が公務員等・・・である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」を「不開示情報」から除外しています。
(注3)情報公開法5条は「開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない」とし、同条1号ハは「当該個人が公務員等・・・である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」を「不開示情報」から除外しています。
1 公務員の「職務に関する情報」は公務員の「個人情報」でもあること
まず確認しておきたいのは、公務員の「職務に関する情報」も、その公務員の「個人情報」になり得るということです。例えば、ある職員が住民に対して行政指導を行った、許認可の審査を担当した、会議に出席して発言した、といった情報は、その職員の職務に関する情報であると同時に、その職員という特定人の個人情報でもあるということです(注4)。
ところで、個人情報保護法は、開示請求者以外の個人に関する情報を、情報公開法は、特定の個人を識別することができる情報などの「個人に関する情報」を、それぞれ原則として不開示情報としています(個人情報保護法78条1項2号、情報公開法5条1号)。しかし、公務員が公務として行った行為についてまで、「個人情報」であることを理由として一律不開示ということになれば、行政の透明性や説明責任を十分に果たすことができないことになってしまいます。そこで、個人情報保護法や情報公開法は、公務員に関する情報のうち「職務の遂行に係る情報」については、当該公務員の職及び職務遂行の内容に係る部分を不開示情報から除外するという取扱いをしているわけです(個人情報保護法78条1項2号ハ、情報公開法5条1号ハ)。
(注4)宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』(2021)550頁。
2 「職務の遂行に係る情報」の範囲
このうち個人情報保護法78条1項2号ハは、公務員等について、その情報が「職務の遂行に係る情報」である場合には、「当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容」に係る部分を、不開示情報から除外しています。また、情報公開法5条1号ハも、ほぼ同様の規定となっています。
ここでいう「職務の遂行に係る情報」とは、公務員等が行政機関等の一員として、その担当する職務を遂行する場合の活動に関する情報をいいます。例えば、行政処分その他の公権力の行使、職務としての会議への出席や発言、その他職務として行われた事実行為などがこれに当たります。したがって、例えば、ある課長が会議に出席してどのような説明をしたのか、あるいは担当職員がどのような行政処分を行ったのか、といった情報は、基本的には「職務の遂行に係る情報」ということになります。
もっとも、公務員に関する情報であれば、すべてが「職務の遂行に係る情報」になるわけではありません。例えば、職員の健康状態、休暇の取得、人事評価、個々の職員の給与支給額などの情報は、自治体が職員について人事管理上保有している情報ではありますが、その職員が具体的な職務をどのように遂行したかについての情報ではありません。このような情報は、「職務の遂行に係る情報」には含まれないと解されています。要するに、「公務員に関する情報」と「公務員が公務として何をしたかという情報」とは、区別して考える必要があるということです(注5)。
ところで、ここでもう一つ問題になるのが、公務員の氏名の取扱いです。個人情報保護法78条1項2号ハを見ると、「職務の遂行に係る情報」のうち不開示情報から除外されるのは、「当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容」に係る部分であり、条文上「氏名」は含まれていません。個人情報保護委員会は、この点について、公務員の氏名は、職務遂行に関する情報に含まれる場合であっても、私生活において個人を識別するための基本的な情報として用いられており、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると説明しています(注6)。そのため、公務員の氏名は、同号ハによって当然に開示される情報とはされていません。
もっとも、公務員の氏名が常に不開示になるということではありません。例えば、人事異動がホームページなどで公表されている場合や、職員録などによって職と氏名が公にされている場合には、「慣行として開示請求者が知ることができる情報」として、別の規定(個人情報保護法78条1項2号イ)により開示されることがあります。
また、自治体に対する情報公開請求の場合には、それぞれの自治体の情報公開条例の規定を確認する必要があります。例えば、福岡市情報公開条例は、公務員等の職務遂行情報について、「職及び氏名並びに当該職務遂行の内容」を原則として公開の対象としています(注7)。この点で、当該条例は、「職及び当該職務遂行の内容」と規定する国の情報公開法と異なっています。
したがって、自治体職員の氏名が公開されるかどうかについては、全国一律に決まるものではなく、それぞれの自治体の情報公開条例の規定や公表慣行などを踏まえて判断する必要があることになります。
(注5)参照、宇賀・前掲551頁以下。
(注6)個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのQ&A(行政機関等編)」Q5-4-6。公務員等の氏名については、私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値し、法78条1項2号ハによって不開示情報から除外されてはいない、としています。他方、人事異動の公表等により氏名を公表する慣行がある場合などには、同号イにより開示される場合があるとしています。
(注7)福岡市情報公開条例7条1号ウは、公務員等の職務遂行情報について、「当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分」を原則として個人情報による非公開の対象から除外しています。ただし、職及び氏名を公にすることにより個人の権利利益を不当に害するおそれがある場合は除かれる、としています。
3 懲戒処分・勤務状況などの人事情報の取扱い
ところで、自治体職員にとっては、懲戒処分、勤務成績や人事評価、病気休暇や年次休暇の取得、あるいはハラスメントについて調査を受けたことなどの情報が、どのように取り扱われるのかも気になるところだと思います。これらはいずれも、その職員に関する情報です。しかし、前述のとおり、そのことから直ちに「職務の遂行に係る情報」になるわけではありません。
この問題を考える場合には、その職員が「公務として何をしたのか」という情報と、その職員について使用者である自治体が「どのような評価をし、あるいはどのような人事上・身分上の取扱いをしたのか」という情報を区別する必要があります。例えば、東京都の情報公開条例の解釈・運用基準では、「勤務態度、勤務成績、処分歴等職員としての身分取扱いに係る情報」は、「職務の遂行に係る情報」には当たらないとされています(注8)。
この区別は、懲戒処分を例に考えると分かりやすいと思います。例えば、ある職員が許認可事務を担当し、その事務処理に問題があったため懲戒処分を受けたとします。この場合、その職員が許認可事務についてどのような判断をし、どのような処理をしたのかという情報は、その職員が公務として行った活動に関する情報ですから、「職務の遂行に係る情報」に該当することになります。これに対して、その職員が懲戒処分を受けたか否か、戒告・減給・停職・免職のいずれの処分を受けたか、あるいは過去に懲戒処分歴があるかといった情報は、その職員が公務として行った行為そのものについての情報ではありません。その行為などを理由として、任命権者がその職員に対して行った人事上・身分上の取扱いに関する情報です。
したがって、このような情報は、公務員の「職務に関する情報」ではありますが、それだけで「職務の遂行に係る情報」に該当するわけではありません。大阪市情報公開審査会は、超過勤務手当の不適切な請求に係る処分を受けた職員の氏名等について情報公開請求がされた事案で、勤務評定や懲戒処分等について、「職務に関する情報」ではあっても、「職務の遂行に係る情報」には該当しないという整理をしています(注9)。
もっとも、懲戒処分に関する情報が「職務の遂行に係る情報」に該当しないからといって、直ちに、その情報がすべて不開示になるということではありません。この点については、自治体が懲戒処分の内容を自ら公表する場合と、情報公開請求に対して開示する場合とを区別する必要があります。前者については、自治体によって懲戒処分の公表基準が設けられており、一定の事案について、処分年月日、所属、役職、処分内容、非違行為の概要などが公表されています。他方、後者については、それぞれの自治体の情報公開条例の規定に基づき、開示・不開示が判断されることになります。その際、既に公表されている情報であるかどうかなども考慮されます。
(注8)「東京都情報公開条例の施行について」は、「公務員等の勤務態度、勤務成績、処分歴等職員としての身分取扱いに係る情報などは、『職務の遂行に係る情報』には当たらない」と明示しています。
(注9)大阪市情報公開審査会答申第163~167号は、公務員が受ける勤務評定や懲戒処分等について、「職務に関する情報ではあっても、『職務の遂行にかかる情報』には該当しない」としています。また、同審査会答申第359号も、処分を受けること自体は当該公務員が担任する職務の遂行には該当しないとの考え方を示しています。
おわりに
以上見てきたように、自治体職員であっても、その私生活に関する情報などの純然たる個人情報はもちろん、健康状態、休暇、勤務成績、人事評価など、職員の人事管理等に関わる情報については、個人情報としての保護の必要性が失われるものではありません。他方で、自治体職員が公務としてどのような職務を行ったのかという情報については、行政の透明性や住民に対する説明責任という観点から、一般の私人とは異なる取扱いがされることになります。この両者を区別する際に重要なのが、本稿で取り上げた「職務の遂行に係る情報」という概念です。
公務員の個人情報の問題を考える場合には、「個人情報だから不開示である」、あるいは反対に「公務員だから開示される」と単純に考えるのではなく、その情報が、その職員が「公務として何をしたのか」という職務遂行に関する情報なのか、それとも、その職員の人事、身分等に関する情報なのかを区別して考えることが必要になります。公務員の個人情報の保護と行政の透明性・説明責任との調整は、結局のところ、この区別をどのように行うかという問題であるといえるのではないでしょうか。
なお、小稿は、学術論文ではなく、あくまで個人的な研究ノートとしての雑記・雑文です。したがって、論点を網羅するものではありませんし、注なども最低限のものにとどめています。また、個別事案への適用については、具体的事情により結論が異なり得ることにご留意ください。